僕らが本屋の未来を変えるまで

リトルスタッフ開発や日々の取り組みについての記録

Re: 電子書籍時代の本の流通活性化

リトルスタッフかんのです。

リトルスタッフとは関係ありませんが、出版業界の活性化に対してご提案を頂きました。
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https://twitter.com/MomoiRiyu/status/1102171833934045184


簡単にですが、パッと見て感じたことを書きます。

前提

最初、僕は質問者である百一里優さんが実際に行動するアイデアという前提で読んでいました。
しかし提案内容やTwitterのタイムラインなどを見て、これは文字通り「提案」だと解釈を変えました。

つまり百一里優さんが行動されるわけではなく、「こうしたら業界は良くなるんじゃない?」という議論レベルの問いかけです。
ここから先はその認識をもとに書きますが、この認識が間違っていたらすいません。

イデア自体に関する細かいコメントは省きます

コメントを求められたので正直に申し上げますと、議論レベルという前提だと僕はアイデアそのものにあまり興味はありません。
僕は「誰かがすでに行動している」または「誰かが行動しようとしている」アイデアに興味があります。

または「僕が行動できそうなアイデア」に興味があります。

「こうすれば業界は良くなる」が仮に正論だとしても、実行する人、継続する人がいないと絵に描いた餅でしかありません。

僕はアイデアには価値がないと考えるタイプです。
業界を変えるのは斬新なアイデアや正確無比な論理ではなく、泥臭い実行力だと思っています。

リトルスタッフという活動を1年以上やってきた経験からお答えできることがあるとすれば、アイデアを思いつくのは簡単ということです。
しかも思いついた本人にとってそのアイデアは完璧に見えます。当人には成功イメージがハッキリと浮かぶからです。
なぜ浮かぶかと言えば「全ての人が自分の思い通りに動いてくれる・感じてくれる」と考えがちだからです。それは自分自身のことでさえも、思い通りに動けると錯覚します。

でも本当に難しいのは始めること、最初の1回まで完成させること、結果が出なくても続けること、そして何よりも最終的に結果を出すことです。
論理が正しいように見えても結果が出ないことは、有名な事業家や企業でさえ失敗が減らないことからも明らかです。

なので、ご提案頂いたアイデア自体の詳細に関するコメントはほとんどありません。実行者がいない状態での議論には意味がないと考えるからです。

この後の文章には質問系が出てきますが、答えを求めているわけではなく、「こういう視点での詰めが見えなかったので疑問に感じたよ」程度に受け取って頂ければと思います。
(ご返信頂いても、それに対して僕の方から新たなコメントがあるとは限りませんので)

提案内容は1つに絞った方が良い

頂いたご提案は3つありましたが、1つに絞った方が議論しやすいです。

最初その3つには相関関係があるのかと思いましたが、それぞれ独立しているかと思います。

(議論レベルだとしても)ビジネスを考える要素はたくさんあるので、それが3つもあると散漫になります。
1つ1つに対して、誰が何に困っていて、ご提案内容を実現するとどう解決して、何よりマネタイズはどうなるのかを明確にした方が色々な意見をもらいやすいと思います。

例えば「3.書店向け書籍電子見本の公開」は以下のように書かれています。

  1. 書店向け書籍電子見本の公開
    ・本屋が独自の品揃えを可能とするための手段
    ・会員制にして、当面は出版社のサイトにアクセス。いずれは専用のサイトに集約
    ・専門端末もしくは登録端末でほぼすべての書籍の内容に書店がアクセスできる
    ・買取も有効に活用可能に
    ・返本の削減、品揃えの質の確保にも
    (その他)
    ・文庫目録→電子目録(書店店頭で中身の一部を確認):iPadなどで低コストで整備可能。
    ・書店会員専用の書店(員)レビューサイト(紹介書店にも還元):不得意分野の品揃えの参考に
    ・書店での電子書籍購入→一部は書店の売り上げに(印税等にも振り分け)

登場人物は大きく読者(お客さん)、本屋、出版社の3つがあると思いますが、それぞれの課題と、電子見本が解決になる根拠が分かりません。

例えば読者の課題、またはメリットは何でしょうか。
「紙の本を立ち読みするように中身を確認できる」ことでしょうか。分からないので、仮にそうしておきます。

ということは1人の読者が電子端末を長時間使うことになるのでしょうか。それだと他の読者が使えません。
時間制にして解決するのか、端末を増やすことで解決するのか。その解決策によって生じる新たな問題は何か。

こういった細かいアレコレがたくさん出てくるので、周りが意見を出しやすいように、議論が拡散しないように、提案内容は1度に1つが良いのではと感じました。

自分がやらないのであれば、マネタイズの計画は必須だと思います

当たり前ですが頂いた案はどれも費用が発生します。しかも1提案、数百万を超える金額です。

この費用をどこでどう回収するのか、その目論見がないと他者は動かせません。
規模の大小に関わらず会社や事業主なので当然です。

それぞれの案に簡潔にコメントします。

1. 紙本+電子書籍利用権1年分

資料を読む限り「会員制にしてデバイスを登録」とありますのでシステムが必要そうに見えます。
システム開発は仕様に左右されますが数百万円かかります。モノによっては1000万以上かかります。

この初期費用(開発費用)を払うのはどこでしょうか。
開発費だけではなく、仕様の詳細を考える人たちの人件費もかかってきます。

また、システムには正常稼働させ続けるための維持費というのが存在します。
システムを動かすサーバー代などから人件費まで含めると、(企業なら)安くても毎月に数十万はかかりそうです。

この固定費がかかる以上、それを上回る利益がもちろん常に必要になります。それはどこから発生するのでしょうか。

2. 書店での電子書籍購入で割引

これも1と同様で、「その書店から購入された」ことを管理する必要があるので、システムないし手作業なら人件費がかかります。

3. 書店向け書籍電子見本の公開

同様にシステム開発が必要です。資料には専門端末の記載がありましたが、それだと更にお金がかかります。
しかもソフトウェアと違ってハードウェアは在庫になるので、開発元(出資元)のリスクが格段に上がります。


ご自身が実行されるなら「費用は自分が請け負う」という選択肢のもと、メリットだけを見せるのもアリだと思います。
今の時代は必ずしもマネタイズがリアルタイムである必要はなく、別のフェーズやポイントで儲ける考え方もあります。その理屈を人に納得してもらうのは難しいですが、自分で請け負うなら説得させる必要もありません。

しかし誰かに動いてもらい、かつ誰かにリスクを負ってもらうのであれば、マネタイズの問題は非の打ち所がないくらい綿密にやらないといけないと思います。

余談:業界への貢献度を考えるところに難しさがある

「書店に足を運んでもらうための手段」と書いてありましたが、こういう業界側への貢献度も考えてしまう(考えたいと思う)ところに難しさがありますよね。
読者の利益だけを考えたら「本屋に行かなくても完結する」方が100%嬉しいはずです。単純に手間ですし、そうしないと都心以外など身近に本屋がない地域は不利です。

読者にとっての最適を通すと本屋や出版社にとって不利益が生じることがある。
本屋や出版社を考慮すると、読者にとっては必ずしも最適にはならない。

簡単に言えば論理的じゃないんですね。無視できないレベルで感情が優先されている。
論理的じゃないことを超えるには情熱が必要で、それがいわゆる「コト体験」だとか「個人を売る」ってことに繋がるのだと最近ようやく分かってきました。

つまりブランディングです。

最後に:質問する時はポイントを明確にされた方が良いかと思います

今回、数名に対して「ご意見をお願いします」とTwitterでリプライを投げていますね。
その中の1人に選んで頂いたことを嬉しく思います。ありがとうございます。

複数名に依頼を投げる場合(仮に1人だけでも同じですが)、以下のことを意識された方が双方に良いのではと思います。

  • なぜあなたに質問しているのか、という背景や気持ちを述べる
    • あえて悪い言い方を使いますが、テンプレを使い回しては営業メールと大差ありません。スルー率が高まります
  • どういう観点でコメントが欲しいのかを述べる
    • 実現可能性はあるのかどうか、とか
    • 費用面の概算はどう考えればいいか、とか
    • 読者目線でニーズがあるか知りたいとか、本屋目線で気になるポイントがないか知りたいとか

以上です。面白い機会を頂きありがとうございました。


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