僕らが本屋の未来を変えるまで

リトルスタッフ開発や日々の取り組みについての記録

今のリトルスタッフを作る時に考えていたこと

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リトルスタッフかんのです。
リトルスタッフを改善しようとあれこれ浮かんでは、「いやそれをしちゃうとコンセプトからズレちゃうのでは」と思い直すのを繰り返しています。
ここでもう一度サービスのコンセプトというか初心を振り返るべきと、当時(2018年6月)書き残していたノートを見直しました。これはその整理です。

必要性を作る

以前のリトルスタッフからリニューアルするにあたって、まずはサービスの存在意義を明確にしようとしました。
他のサービスで実現できるならリトルスタッフを使う理由はありません。次のようなケースはすでにサービスが存在します。

目的 サービス
本の販売 BASE
コンテンツ販売 note
企画に対する資金調達 クラウドファンディング、Polca
イベント管理 Peatix、パスマーケット
ファンクラブ CAMPFIREファンクラブ、オンラインサロン、fever
会員権 Spotsale
ファンレター レターポット、Ofuse

上の表は2018年6月に書いたものですが、今はCHIPなどファンクラブ(コミュニティ)周りのサービスが増えています。今後もしばらくは新規サービスがどんどん出てくるでしょう。

リトルスタッフはこれらのサービスでは補えない部分を狙い、本屋と読者の両方を満たす必要があります。

本屋にとっての必要性

上の表にも書いたように、ほとんどのことは既存サービスで出来ます。例えば「イベントレポートや日記を有料販売したい」と思えばnoteが使えます。継続的な支援が欲しければファンクラブやオンラインサロンという選択肢があります。

しかし多くの本屋さんはこれらのサービスを使っていません。なぜでしょうか。

僕の理解では、本屋さんは「本を売りたい」のであり「来店して欲しい」のです。そのために本屋や書店員をやっています。当たり前のように聞こえますが、ビジネス視点で考えるとそうでもありません。ビジネス的には「売上を立てること」が重要です。だからビジネス論で進めるならECに抵抗はないし、noteみたいなコンテンツ販売やオンラインサロンみたいなツールも積極的に使っていくでしょう。
(今はECをやられている本屋さんも多いですが)

なぜ多くの本屋さんがこれらのツールを使わないのか。もちろん知らないとかネットに弱いとかもあるでしょうが、一番は「来店して欲しい」からだと僕は思っています。ECやコンテンツ販売で済んでしまったら店舗を構えている理由がない。本屋さんがイベントを頻繁にやっているのは、必ずしも本が売れなくても、来店してもらえるきっかけになるというのが大きいのではないでしょうか。
芸術家や作家、ミュージシャンと同じように本屋さんも自分のお店を作品として捉えているように見えます。冷静で論理的な利害より、自分の信念による判断を好むように見えます。本屋にも個性が宿る理由です。

だからリトルスタッフでは配送は行わず、最終的に本屋へ受け取りに行くという仕様にしています。この思想は恐らくずっと変わらないでしょう。配送ならECを使った方が本屋としても読者としても便利ですから。
またリターンなどで差がつくような設計にするのも不本意です。本屋さんとしては本と店構えで勝負したいはずで、リターンの差別化はその本筋から外れます。
補足しておきますが、本屋さんが好んでそういう風にリトルスタッフを使うこと自体は反対していません。好きに使っていただいてOKです。あくまでサービスを作る上でのコンセプトの話です。

他のサービスではなくリトルスタッフを本屋さんが選ぶ理由の一つは「最終的に来店へ繋がるように設計されているから」です。
(他にも継続的な収入などありますが、今回の話とは逸れるので)

読者にとっての必要性

読者さん(お客さん)にとっての必要性を満たすのは難しい。なぜなら本屋さんに比べると、読者さんにとって「本屋に求めるもの」は多種多様だからです。

リトルスタッフを今の形にするにあたって、当時の僕は次のように「求めるもの」を分類しました。「その場で手に入る」など本屋の仕組みとして当たり前なことは省き、それ以上に求めるものに絞っています。

求めるもの カテゴリ タイミング
安く買える 割引 買う時
他商材(コーヒーとか)が安くなる 割引 買った後
ポイントがつく 割引 買った後
オマケがつく 物品 買った後
イベント参加権 権利 買った後
イベントレポート 情報 買った後
偶然の出会い 情報? 買う前

少し補足しておきます。イベント参加権は「本を買った場合」に限りません。そのお店で興味あるイベントがあったとき、その参加権が欲しい(=求めるもの)というだけです。イベントレポートも同様。そのお店であったイベントのレポートを読みたい時、noteのようにコンテンツ課金だったら払うかもしれない、という話。
週1で(興味ある)イベントレポートが流れてくるなら、僕は月額1000円ぐらいは余裕で払えます。時間や場所の都合でイベントに行けないけど内容は気になる、という人は多いんじゃないでしょうか。

「偶然の出会い」のカテゴリが「情報?」になっているのは、これは情報系なのだろうか、という当時の迷いです。今もハッキリしていません。情報というより「体験」の方が適切な気がしています。ただそれを言ってしまうと「安く買える」のも体験と呼べるのではないか、とも。何でもかんでも体験に言い換えることが出来てしまう。

話を先に進めて、上記の分類に対して考えます。
割引系については可能なお店が限られてきます。他商材の割引は商品を扱っていないと無理ですし、本にしても新刊書店は再販制により割引できません。イベント系の特典も、イベントをしない本屋さんでは不可能です。
オマケは用意すること自体にコストがかかりますし、本屋さんとは関係ないセンスやスキルが求められます。

つまり「読者が本屋に求めるもの」は色々あれど、幅広く多様な本屋さんをカバーするなら「偶然の出会い」という、本来の本屋さんの魅力に絞るしかないように思います。

これは以前「便利なAmazonと楽しい本屋と滅びゆく本屋と」という記事で書いた視点とも一致します。
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無店舗型や個人書店は便利性を高めても大手やAmazonに敵わないので、エンタメ性を高める方に注力すべきという意見です。

僕にとっての必要性

リトルスタッフは「僕が1人目のユーザー」という意識を大事にしています。では僕は本屋さんのどの部分ならお金を払うだろうかと考えると、大きく3つ浮かびました。

  • イベントレポート
  • 選ぶ手間
  • 捨てる手間

イベントレポートは先に書いた通りです。

選ぶ手間に関しては、疲れている時とか新しいジャンルに手を出す時とか、選択肢が多すぎる上に選ぶ基準が分からず億劫になるからです。面白い本が読みたい、でも本を選ぶのが疲れるという状態。

捨てる手間は文字通り。売るにしても捨てるにしても、単純に面倒くさい。僕は極度の面倒くさがりなので、紐で縛るにしても梱包するにしてもお店へ持っていくにしても面倒くさく感じてしまう。一番いいだろうなと思うのは、本1冊を持ち歩いて読み終えたら本屋さんに行って引き取ってもらうこと。独立系の本屋さんだと出来るお店はありますが、僕の徒歩圏内にはないので...。

リトルスタッフでは前述までの考察も含めて、「選ぶ手間」に絞って考えることにしました。
ここで大事なことは僕はあくまで「自分で選ぶことが好き」ということです。矛盾しているようですが、選ぶのは疲れる(こともある)けど決めるのは自分が良いんです。自分で決めるからこそ本への期待感が高まります。

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(今の形にリニューアルする際、Twitterにアップした図。これに関する記事も書いた気がするけど探せなかった)

イメージした結果「面白い本が x 毎月 x 安く手に入る」ならサービスにお金を払えると思いました。
ちなみに似たようなことをするサービスが海外にはあることは、このあと知りました。
(ただしこのサービスは本屋さんは関係ない)

"本屋の継続課金"に似た海外の選書サービス「Book of the Month」

  1. 月々14.99ドル(約1,600円)を払いブッククラブの会員になる。
  2. 毎月、BOTMが厳選した「今月の5冊」から1冊を選ぶ。最大3冊まで選択可能で、2冊目からは追加で9.99ドル(約1,100円)を支払う。
  3. 選んだ本が自宅に送られてくる(配送料は無料)。

日本において「安く手に入る」のは再販制があるので難しいけど、「面白い本が x 毎月 x 手に入る」でもいいかもしれない。
これらの発想をスタートにして「抽選システム」が生まれました。

現状の課題とこれから

リトルスタッフは本屋さんを応援(投げ銭)するための仕組みでもあるけれど、同時に「本を買う体験を助ける」サービスも目指しています。
現時点でうまくいっていないのは以下の点。

  • 本屋さん(実業務)の負担になって欲しくないので、投稿にコストをかけさせたくない
  • しかし読者にとって「本を手に入れる」(抽選に応募する)ためには投稿が必要
  • 抽選システムの説明が不足しているため、読者の99%がたぶん理解できていない
    • 本を受け取る(お店へ行く)というコンセプトが伝わらず、「投げ銭〜選書の閲覧」サービス止まりになっている
  • 抽選に参加出来るのは1000円プラン以上なので、ちょっと試してみるには心理的ハードルが高い
    • 先払いみたいなものなので実はほとんどの場合に読者は損をしないけど、その辺も説明不足により伝わっていない

抽象的な結論になってしまうけど、取り組むべきは次の点だろうか...。

  • 投稿周りの使い勝手を改善する
  • 抽選システム含め、まるでゲームアプリのように親切丁寧な注釈やチュートリアルを用意する
  • 抽選システムの仕様をもっと簡単にする
    • 例: 1枚1000円相当の応募券という概念を辞めて、ただ応募できるだけの回数券にする(支払いは店頭で行う)

今回の見直しで再確認したのは、「本を受け取りに行く体験を諦めるな」ということですね。今まで何回も同じ反省をしているけど、ついつい違う方向(アイデア)に目が行きがちになる。何回でも反省しよう。


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