僕らが本屋の未来を変えるまで

リトルスタッフ開発や日々の取り組みについての記録

本屋投げ銭サービスの問題点について考える

LittleStaffのMVP(必要最低限機能)について考えています。
「しっかり店作りをしている本屋に対価が支払われること」をクリアし、本屋3.0を実現するには何が必要か。
このブログの目的は「過程を残す」ことにあるので、答えをまだ出していない頭の中も書いてみます。

ネットを通して課金してもらうことを考えると、クラウドファンディング、有料会員、投げ銭が思いつきます。

クラウドファンディング

クラウドファンディングは基本的にプロジェクト(企画)に対してお金を集めるシステムです。
でも僕は「資金調達の仕組み」を実現したいわけではありません。
「店作りへの対価や感謝、応援」として使うにはズレています。(開店などの初期投資としてはアリですが)

それに投資してくれた人にはリターンを用意する必要があります。
後述しますが、それはMVPとしては避けたいです。

有料会員

月額の有料会員モデルはどうでしょう。
会員になると何かしら特典が利用可能になります。例えば以下のようなものがパッと思いつきます。

  • (カフェ併設なら)1日コーヒー1杯100円とか無料
  • (イベントをやっているなら)割引とか、優先的にチケットが取れる
  • (イベントをやっているなら)イベントの書き起こし、もしくは動画などのアーカイブを見れる
  • 希望者のうち数名に選書する
  • 店内POPの作成権利
  • etc

有料会員特典は、(実装の手間を無視すれば)いくらでも思いつきます。
しかしこれも、クラウドファンディングと同じ理由で避けたいです。

クラウドファンディングや有料会員をMVPにしない理由

最初の記事で僕は本屋3.0という考えを示しました。

そしてこれからは、お客さんと本屋がもっと距離を縮め、お互いに補完して体験の質を向上する。そんな時代が来ると思っています。これが本屋3.0です。
本屋には個性があり、そこにはファンがいます。そういう意味ではタレントと同じではないかと思うのです。

ライブやリアルタイム配信に代表されるように、今はお客さんとコンテンツ提供者がダイレクトに繋がる時代です。
少なくとも今の本屋に求められているコンテンツは本ではなく、空間や体験です。

「xx円払うから何かちょーだい」という方式では本屋3.0は実現出来ません。
この方式では「本屋vsお客さん」の図式であり、利害に基づく関係が出来上がります。
僕が目指す本屋3.0は「本屋withお客さん」であり、協力に基づく関係です。
「欲しいから与える」のではなく、「与えたいから与える」というスタンスを根底に置きます。その前提をクリアした上で初めて「お返し」を考えます。

お客さんは本屋を応援(投げ銭)して、それを受けて本屋側は使命感と感謝を持ってお客さんに応える(体験の質を向上する)。そこに好循環が生まれる。そういう未来を作ろうとしています。

なぜ後者を目指すか。ファンを作るとはそういうことであり、それが熱狂的なコミュニティを作ります。
そして本屋ごとにそういうコミュニティが増えることで、本屋業界が盛り上がり、結果的に出版業界を盛り上げることに繋がると信じているからです。
本屋というローカルコミュニティを作りやすい場としても、その方が向いていると思うのです。

それに戦略的な理由としても、「利」を武器にしたら競合優位性を保つのが難しくなります。体力ある大手が参入した時に勝てません。

ということでサービスのMVPとして考えた時、クラウドファンディングや有料会員のビジネスモデルは不適切と判断しています。
(繰り返しますがMVPを他に確立した上で、付加価値として用意するのはアリだと思っています)

投げ銭

「選書イイね」的な、面白いと感じた本屋に対して投げ銭できるサービスはどうでしょうか。
リターンや特典の保証は一切ありません。
今はこれをMVPとして考えているのですが問題があります。

投げ銭は本来、「感動したその場でチップとして払う」ものです。
路上ライブはもちろん、SHOWROOMやSuperChat、noteにしてもコンテンツと課金フォームは同じ空間(画面)上にあります。

しかし本屋のコンテンツである「体験」はオフラインであり、その時LittleStaffはおろかスマホ自体いじっていないでしょう。
そうなると、そこでスマホを取り出して投げ銭することは考えにくい。普段の行動習慣に含まれないし、面倒臭いからです。
ではその後で、ふとした時に「あの本屋よかったな」と思い出してサービスに繋いで投げ銭するでしょうか。一部の熱烈なファンならあるかもしれませんが、大多数は難しいでしょう。

「人の行動は習慣が9割」と言われるくらい、僕たちは慣れ親しんだ行動から外れません。
そこに強い動機付けがない限り最初の一歩を踏み出しませんし、ましてや継続には繋がりません。
「今すぐ投げ銭しないと本屋が潰れる」というものでもない限り、「良かった」という印象だけでは投げ銭しないのではと疑っています。

また仮に同じ空間に課金フォームがあったとしても、それだけでは投げ銭は発生しません。
既存の路上ライブ、路上パフォーマンスがその難しさを既に表しています。
単純な例として本屋に物理的な「投げ銭Box」を置いたとしても、ほとんどの人は投げ銭しないでしょう。せいぜいお釣りの小銭を入れるぐらいです。コンビニの募金箱と同じです。
塵も積もれば、かもしれませんが、それは決して応援の結果ではないので本屋3.0とは程遠い。

ネット上にしても、5年以上前から色々なWeb投げ銭のサービスが失敗に終わっていることからも、いかに投げ銭してもらうことが難しいかが分かります。
(あるWeb投げ銭は「サイト上にボタンを置くだけ」という、コンテンツと共存させるパターンにも関わらず失敗しています)

では投げ銭するとポイントが溜まり、それがサービス内で使えるビジネスモデルはどうでしょうか。そういう「サービス固有のポイントに変換」するモデルはたくさんあります。
が、これは投げ銭というよりポイントを買っているだけなので、前述のクラウドファンディングをMVPにしない理由と同様になります。

投げ銭したくなる心理

投げ銭に似たような行動として以下が浮かびます。

  • 寄付
  • 知人へのプレゼント
  • ご祝儀
  • ボランティア
    • お金ではなく労働力を支払う

前述した投げ銭の難しさに比べて、これらが(少なくとも心理的には)容易に行えるのは何故でしょうか。
僕は「相手の反応が見える/想像できる」ことと、「払ったお金が何に使われるか知っている」ことがポイントだと思っています。

何かをプレゼントすることで相手が喜んでくれる、笑ってくれる。好意を持った相手であれば、それだけで嬉しくて満足します。
もしプレゼントしても無反応だったり、そもそも反応が見えないようでは2回目以降のプレゼントは続かない可能性が高くなります。
リアルタイム動画配信と投げ銭の相性の良さの一つは、これを実現できることにあります。

払ったお金の使い道が見えていることも大事です。そこに意義があれば尚の事「役に立った」という承認欲求を満たせますし、参加者の1人になった満足感も得られます。
クラウドファンディングはこれに沿っていると言えるでしょう。
使い道が分からないのにお金を与える人は稀有だと思います。

上記を参考に本屋投げ銭を考えてみます。
まず「相手(本屋)の反応」を直接見ることは難しい。せいぜいネット上でコメントのやり取りをするぐらいでしょう。
反応は間接より直接の方が良く、文章より対面が良く(顔が見える)、時間を置くより即座にもらえる方がいいです。
期待する効果は低いように思います。

「お金の使い道」も難しい。何度も書いたように「xxがしたいからお金が欲しい」というのはMVPとして避けたい。
お金が集まった後で、「頂いたお金で新しくこんなことしました」とか「ここを改善しました」という反応が恐らく一番望ましい。
自分たちの応援で本屋がレベルアップしたら面白い。進化の過程を共有できるのは素晴らしい体験となる。
けどそれを実現するのは本屋依存になってしまうのではないか。サービスで担保出来るのだろうか。「公約」にしたら、やっぱりクラウドファンディング的になってしまう。

どこまでサービスで担保できるように努力するか。
結局、クラウドファンディング的なのでいいのではないか。
行ったり来たりしながら着地点を考えています。

現時点での方向性

ネット上のサービスゆえに、「不特定多数」をいかに集めるかということに固執しているかもしれません。
本屋は性質上、基本的にオフラインであり地域と密着しやすいものです。
つまり「大多数の幅広いファン」よりも「少数のコアなファン」に適しているのではないか。

そうなると前述のこの懸念は無視出来ることになります。

ではその後で、ふとした時に「あの本屋よかったな」と思い出してサービスに繋いで投げ銭するでしょうか。一部の熱烈なファンならあるかもしれませんが、大多数は難しいでしょう。

MVPとして「一部の熱烈なファン」にまず届くようなサービスであれば良いのではないか。
「100円x5000人=50万円」より「1000円x500人=50万円」を目指す方が現実的なのではないか。そんな風に思い始めています。

機能設計における判断基準

極力シンプルにします。モノづくりは引き算だと考えています。
「あったらいい」程度の機能は作りません。「ないと困る」ものだけ作ります。

関連書籍

今回書いたようなことを元々考えていたのですが、まさに同じようなことを書かれている本に出会いました。

ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~

ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~

本屋ではなくカフェ「クルミドコーヒー」の店長さんが書かれた本です。
「利用し合う関係ではなく支援し合う関係」「不特定多数ではなく特定多数」「カフェとはエンターテインメント業」といったキーワードが並び、僕が目指している本屋3.0の理念に近くて読みながら「そう!そう!」と何度も刺激をもらいました。

この本には投げ銭についても実体験が書かれています。Web投げ銭ではなく実際の投げ銭です。
設定金額より多くの支払いがあったにも関わらず、「失敗だった」と結論づけています。

「不平等な交換」が与える、「前向きな負債感」とは? クルミドコーヒーの事例から学べること

日記

「ゆっくり、いそげ」は投げ銭について調べている時に、引用したブログを通して存在を知りました。
読書はタイミング次第で本人にとっての価値が変わりますが、とてもいいタイミングで出会えました。

こういう成功体験があるから読書が好きになる。