僕らが本屋の未来を変えるまで

リトルスタッフ開発や日々の取り組みについての記録

AIは書店員から選書の仕事を奪うか

本屋は良い。本屋に行くと「偶然の出会いがある」と良く言われる。
買うつもりがなかった本、関連性がなさそうに思えた本。そういう出会いは色々な本が置いてある本屋だからこその体験で、ネット上では再現できない。
そんな風に良く言われる。

本当にそうだろうか。
もちろん"現時点では"ネット上では再現できない。でも近い将来は?AIがそれを解決するのではないか?

今日は本屋の選書(売る本を選ぶこと)とAIについて考えを整理する。

普通の選書はAIで置き換えられる(はず)

まず本屋さん(書店員さん)はどうやって本を選んでいるのか。
僕は書店員ではないけど、大きく3つの要素から成り立っていると思っている。

  1. 知っている本の量(読んだことない本を含む)
  2. 本の内容に関する知識
  3. 本を届ける相手に関する知識

選書とは簡単に言えば「誰にどういう本を届けるか」だと思う。
人によって好みは違うので、同じ本を選んでも喜ぶ人と無関心の人がいる。

多様な人に合わせて的確な選書をするには相手に関する情報と選択肢の量が必要になる。

極端な例で言えば相手の好みや読書遍歴を知らなければ、たくさんの選択肢(本)を知っていても相手を喜ばせることは難しい。
ミステリ小説が嫌いなことを知らずにミステリ小説を勧めてしまうかもしれない。

選書といえば、いわた書店さんの一万円選書が良く例にあがる。
http://iwatasyoten.my.coocan.jp/form2.html

サイトにも書いてあるが、一万円選書には「詳しいカルテ」が必要だ。

●選書の流れ●
①なるべく詳しいカルテを送っていただく。
②それをもとに岩田がじっくり選書する。
③見積もり(リスト)を出しOKなら入金手続きをお願いする。
④ささやかなお手紙を添えて、お届けいたします。

このことから「良質な選書には相手の情報が不可欠」だと言える。

一方で相手のことをめちゃくちゃ知っていても、選択肢(本)が少なければ相手を喜ばせることは難しい。

そしてこの3要素はAI(コンピュータ)の方が得意だ。
インプットの処理能力で人はコンピュータに勝てない。

個人の情報がどんどんネットに蓄積される時代へ

「本の量」と「本の中身」についてはテキスト情報をひたすらインプットすればいいだけなので割愛する。
「本を届ける相手に関する知識」はどうだろう。

少し前に「データベース化によって児童一人ひとりの読書傾向を先生が理解する」記事が炎上した。
https://media.housecom.jp/misato/
(真相は分からないけど一応訂正記事も載せておきます https://news.careerconnection.jp/?p=56027 )
この取り組み自体は図書館の規約(?)に反するらしいし本題とずれるので賛否は触れない。

取り上げたいのは、「個人の読書傾向が把握されるなんて気持ち悪い」という意見が多く目についたこと。
僕は5年後か10年後か30年後か分からないけど、これは否応無しに訪れる未来だと思っている。

中国のジーマ信用を例に取らなくても、個人のあらゆる情報はネットに吸収される。
その方がもっと色々なビジネスが展開できるからで、簡単に言えば便利になるからで、経済効果を期待できるこの流れを止めるはずがない。
読書ではないが例えばZOZOSUITは個人の体型を管理するし、レシート買取アプリのONEは「どこでどんな人が何を買ったのか、が分かるビックデータの売却がビジネスモデルではないか」と言われた。

他にも国内外で無人店舗の実験は進んでいるし、IoTによる商品棚の自動管理なども進んでいる。
監視カメラと画像認識によって個人の特定が出来るという話もある。

「進化したAIによって、監視カメラが「世界」を認識できる時代がやってきた」
https://wired.jp/2018/05/01/cameras-know-what-theyre-seeing/

「自分たちのデータが広告に利用されたり、1日の行動を追跡するために利用されたりするとは、誰も考えていません」

色々と参考事例を出してみたけど、要は全てを電子化してデータ化する流れは止められないと思う。
そして最初こそ抵抗を覚える人は多いけど、次第に慣れていく(慣らされていく)はずだ。
例えば今だってGoogleの検索履歴が残るのを嫌って、普段からシークレットモード(履歴が残らないモード)で使っている人がどれだけいるのか?
検索履歴に関わらずGoogle関係のサービス利用により、どれだけの個人情報を日々Googleに捧げているか自覚している人は少ないのではないか。

「本を届ける相手のこと」についても、他要素と同じくいずれAI(コンピュータ)の方が知っている、という時代が来る。
つまり選書に必要な3要素は全てコンピュータに置き換えることが出来る。

選書にスキルは存在するのか?

話は前後するが、昨日こんなツイートをした。

f:id:kanno_kanno:20180826040123p:plain

僕の中では一応答えが決まっている。
まずプロとアマの違いについては、プロは客観性を持って本を選ぶのに対して、アマは主観で本を選ぶ。
アマは「自分が好きな本」しか選ばない。
プロは相手に合わせて本を選ぶ。だから選書の要素にも書いたように「相手の情報」が必要になる。

その上でプロ同士のスキル差は3要素の残り2つ、「知っている本の量」と「本の内容に関する知識」、つまり選択肢の差だ。引き出しの多さと言ってもいい。

僕のこの定義でいうと、3要素を兼ね備えた未来のAI選書に、書店員は「本を選ぶ」ことに関しては勝てない。
では偶然性はどうだろうか。

本屋には偶然の出会いがあり、それはAIでは再現できない?

「AIでは本との偶然の出会いがない」と良く言われる。
今のAIというかレコメンド(おすすめ)は基本的に購買履歴に基づいた関連書籍を表示するだけなので、データ的に関連性がない本は表示されないからだろう。

ここで本との偶然の出会いについて、2パターンを考える。

  • A: 見ていた本の近くに、"偶然出会った"本が売っている場合
  • B: 普段は見ないジャンルの売り場を歩いていて"偶然出会った"場合

Aについては、受け手(読者)が「偶然出会った」と感じただけで、書店員は(購買層まで考慮した)ロジックに沿って陳列している。
その選書基準、陳列方法を言語化してパターン化すればAIで実現できるはず。
Bについては本屋という空間についての話であり、選書そのものの話ではない。

つまり僕は「AIでも偶然性は実現できる」と考えている。

選書は書店員の仕事ではなくなる?

AIが選書できるようになれば、書店員は選書をする必要がなくなるだろうか。

冒頭で例に出した一万円選書をもう一度取り上げる。
一万円選書は、本を選ぶところまではAIで置き換えられると思っている。
インプットに対してロジック(方程式)を通すだけだからだ。身体的な操作に依存する行為は一切ない。

でも、その先についてはAIは再現できない。
「いわた書店の一万円選書が届いた」という体験だ。「選んでもらった」という喜び、わくわく感はAIでは味わえない。そこに"人"は存在しないからだ。
この選書が機械的なおすすめではなく、心のこもった贈り物になっているからだ。

出版業界に限らず、これからは「何を買うか」ではなく「誰から買うか」が重要な時代になる。
クオリティが高いけど無味乾燥な作品よりも、クオリティは低いけど作者に愛着がある作品を。
同じようなクオリティなら関係性が深い売り手から。
モノで溢れている僕らは、自分を満たすだけの買い物には飽きて、相手も喜んでくれる買い方を求めだす。

「本を選ぶ」だけならAIでいい。AIの方が良い。心情的に抵抗があってもそれは事実として訪れる。
僕らは起こり得る未来に備えないといけない。

本屋の個性としての選書

リトルスタッフでは「本屋の個性に価値を作る」ことをコンセプトとしていて、個性の中心には選書があると考えている。
この「個性ある選書」とは「何を選んだか」ではなくて、「誰が、どういう人に向けて、なぜ、どういう気持ちで選んだか」だ。

AIが書店員から選書の仕事を奪うか、という問いに対する僕の答えは「今のままだと奪われる」だ。
書いてきたように人が選書して届けることには特別な価値・体験がある。でも今はそこにお金が流れない。ビジネスとして成り立っていない。

だからリトルスタッフでは「選書という個性」にお金が流れる新しい仕組みを作ろうとしている。これが僕なりの備え方だ。
ということを踏まえつつ、サービスをどう改善しようか考え中。

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